こんにちは,Hiroです.今回は、修士で学術論文を書く方法について紹介します.
僕のプロフィールです
・化学系大学院卒
・2021年4月からメーカーで開発職として勤務
・修士2年時に国際学術論文1st1本投稿
では,早速行ってみましょう!
そもそも学術論文とは
この記事での学術論文とは研究誌へ掲載される査読付きの論文を指します。
査読とは審査員によってあなたの論文が雑誌に掲載するのに値するかどうか審査されることです。
査読の詳細は↓の「論文を投稿するとは」で解説するよ
一般的にGoogle Scholarで検索して表示されている論文は学術論文です。
卒業論文や修士論文は含まないので注意してください。
なぜ大学院で論文を書いたら200万円ゲットできるのか
修士の学生は論文を書いて雑誌に掲載されれば(書くだけではダメ)、200万円を獲得できる可能性があります。
この200万円は何のお金かというと「日本学生支援機構の奨学金」です。
大学院では学部と異なり、大学院で上位の成績を修めれば奨学金が返還免除されます。
大学院の成績はテストの成績ではなく研究業績です。例えば、
- 学会に参加:1点
- 学会で受賞:5点
- 論文投稿:10点
のように各項目ごとに点数が決められており、その点数が高い人が免除になります。そして配点が最も高いのが論文投稿です。
つまり、修士課程のうちに論文を投稿することができれば、毎月8.8万円×24ヶ月=211.2万円を獲得できる可能性が高いということです。
このあたりの詳しいことはこの記事を読んでみてください。
大学院生の奨学金免除方法について2021卒が解説|免除実例も紹介
論文を投稿するとは
先ほど上でも少し触れましたが論文は書くだけではダメです。査読を通過して論文誌への掲載許可を得る必要があります。
論文ではイメージが付きにくいと思うので、漫画を例に考えたいと思います。
例えば、
漫画家をイメージしてください。
漫画を描いただけでは週刊〇ァンプとかに掲載されないですよね。
編集者等の審査を通過して初めて漫画雑誌に掲載することができます。
論文もこれと同じで、論文を書いて、どの雑誌に投稿するか決めてその雑誌の審査を受ける必要があります。
その審査(査読)を通過することができれば研究雑誌に載ることができ、研究業績としてカウントされます。
論文投稿に必要なこと
上で触れたように論文投稿をする際には論文雑誌の審査、いわゆる査読を受けなければいけません。
この査読で審査される大きなポイントは「その論文の研究が雑誌に載せるほどの価値があるか」です。
つまりざっくり言うと、論文投稿に必要なことは「良い研究データ」です。
この「論文投稿に値するデータを取ること」がメチャクチャ難しいよ
良い研究データを得るには
良い研究データとは
まずは良い研究データとは何なのか。これはあくまで個人的な意見ですが、研究において良いデータとは
- 世の問題点を解決するデータ
- 未だ誰も報告していない(論文になっていない)データ
- 多角的に整合性のあるデータ
です。もちろんどれか1つではなく3つとも全て満たしているデータです。
世の問題点を解決するデータ
自己満足な研究をしていても評価はされません。社会に利益を提供できる研究で無ければいけません。
いやそんな社会に還元できる研究とか難しすぎん
確かに難しいよ
ただ、今ある課題を直接的に解決できるほどのインパクトは必要ないと思うよ
課題を解決するための1歩目を提案できれば十分です。それが大学で行う基礎研究の意味です。
最終的な応用は、あなたの論文を参考に他の研究者や企業が実現させます。
小さなことでいいので社会に利益を提供できる研究を心掛けましょう。
未だ誰も報告していない(論文になっていない)データ
もうすでに論文として報告されているデータはもちろんダメです。研究としての意味がありません。
ですので、研究を始める際や進めていく途中もに様々な論文に目を通して、どこまで報告されていて、何が報告されていないのか調べる必要があります。
多角的に整合性のあるデータ
何かを論文として報告するには多角的な考察が大切です。
例えば、熱伝導率が高い物質に関する論文を書く時に、
A装置を用いた測定によって向上が確認されました!
これだけではダメです。これでは本当に熱伝導率が向上したのか、いわゆる確度が低いです。ですので
A装置、B測定, C装置を用いた実験の結果において高い熱伝導率が確認できました。
と書けば確度が高いデータとなります。
論文を書く上ではこのような多角的に考察して確度の高いデータが必要です。
良いデータを得るには
良いデータを得るために必要なことは
- PDCAサイクル
- 失敗しても折れない心
です。
PDCAサイクル
PDCAサイクルとは
Plan(計画)→Do(実行)→Check(評価)→Action(改善)というサイクルのことです。
よくビジネスでも使われる言葉ですが研究においても大切です。研究に適用した場合を説明します。
Plan
ここが最も重要です。まずは実験計画をしっかりと組みましょう。
実験の目的は何なのか、この実験を行うとどのような結果が期待されるのか明確にしてから実験を行いましょう。
闇雲に実験を行っていては修士課程2年間という限られた時間の中で論文投稿には到達できません。
論文投稿をしたいなら修士1年終了時に論文投稿できるデータを取っておくことが理想的だよ
計画的に研究を進めよう!
Do
次はDoつまり実験ですね。Planで立てた計画を実行しましょう。ここで1つポイントがあります。
それは「些細な事でもノートにメモしておく」です。例えば、化学系だと
- どのサイズのビーカーを用いたのか
- 何分撹拌したのか
- 撹拌速度はいくらだったのか
- 実験中の色の変化
等しっかりと書いておきましょう。
最終的に論文にまとめる際にどの実験データが必要になるのか分かりません。
僕も修士2年で論文を書く際に、学部4年のデータも使ったよ。
どんなデータが活きてくるか分からんから些細なことでもメモしておくことは大切だよ。
詳細を書いていないと論文を書く時に苦労します。しっかりとメモしておきましょう。
Check
次は評価、いわゆる考察です。Planで予想していた結果通りになったのか失敗したのか。
失敗したのならなぜ失敗したのか考察しましょう。
ここで重要なのは人を頼ることです。先輩や指導教員に相談してみましょう。
ただ全て投げるのはダメです。
実験をしてみてこのような結果になりました。原因としては〇〇ということが考えられるのですがどう思いますか?
このように自分で考えた上で質問してみましょう。きっと様々なアドバイスを貰えるはずです。
Action
そして改善です。
Checkで失敗原因を明らかにしてそれを改善する実験方法を模索しましょう。
ここで大切なのが文献調査です。
失敗原因を乗り越える実験方法が思いつかなければ、参考文献を探しましょう。自分の研究のキーワードをGoogle Scholarに入れると様々な論文が出てきます。
Googleで「Google Scholar」と検索したら、文献を探す用のページが表示されるよ
文献を1つ1つ読んでいけば、きっと何かヒントが見つかるはずです。
見つかったら再度Planに戻ります。また入念に実験計画を立てましょう。
このサイクルを繰り返していけば良いデータを取ることができるはずです。
失敗しても折れない心
これは研究において非常に大切です。
上記のPDCAサイクルのCheckの部分であえて成功した場合に触れませんでしたが、基本的に思い描いたデータはでません。
僕は、思い描いたデータが最初から出たのは3年間で1度だけだったよ(笑)
失敗する度に心が折れていては研究が進みません。
研究とは誰も結果を知らない事をするものです。つまり失敗して当たり前です。
これを忘れないようにしましょう。また、失敗を悪いことと捉えない事も大切です。
失敗によってその方法では上手くいかないことが分かったと捉えましょう。
それも1つの進歩なんです。失敗なくして成功はあり得ません。
研究での失敗の連続に心を折られる人が非常に多いです。失敗しても
まぁこれが研究でしょう。次を考えよう。
とポジティブに考えてください。
論文投稿の流れ
論文投稿をするとなるとデータを取るだけでなく
- 論文原稿を書く
- 投稿雑誌を決める
- ネイティブチェックを受ける
- 審査を受ける
- 修正する
ザックリとこの流れを行う必要性があります。
論文原稿を書く
まず原稿を書くことからスタートです。最初は書きやすい実験項から書くことをお勧めします。
それから結果→考察→結論→イントロ→アブストラクトという順番でいいと思います。
原稿はWordで書くのが良いと思います。そしてこの時に必須なのが文献管理アプリです。
文献管理アプリとは名前の通り文献を管理するアプリなのですが
- 論文をフォルダーに分けて管理
- 論文ごとにメモを付ける
- 論文をグループで共有
- 参考文献の自動作成
- 文章中での文献番号の自動管理
等ができます。特に下2つを論文執筆中には重宝します。
卒論等も含めて論文を書く際に最後に参考文献を書く必要があります。ただ参考文献には様々な書式があり、1つ1つ入力するのは手間がかかります。
しかしアプリを使えば、書式を選択してクリックするだけで自動で参考文献一覧を作成してくれます。
また、アプリを使わないと文章中に新しい文献を入れると文献番号がズレて修正するのが非常に大変です。
アプリを使っていれば、勝手に全体の文献番号を修正してくれます。
論文を書くとなると30以上の参考文献は必要になってくるからその番号を手入力で管理するのは絶対に無理だよ。。。
非常に便利なので必ず使いましょう。
オススメの文献管理アプリは
Mendeley
もしくは
Zoteroです。
日本語の文献を扱ったり、日本語で文献にメモを付けたい場合はzoteroを使って、それ以外はMendeleyを使えば良いと思います。
Wordと連結させれば非常に便利なのでぜひ使ってください!もちろん無料です!
投稿雑誌を決める
原稿の完成が終盤に近づいて来たら投稿する雑誌を決めましょう。
雑誌にはそれぞれ専門分野があります。自分の研究テーマに則した雑誌を選びましょう。
また雑誌にはインパクトファクター(IF)という値がそれぞれありま。
IF:Journal Citation Reports(JCR)が毎年提供する自然科学・社会科学分野の学術雑誌(ジャーナル)の影響度を表す指標の一つ
1年間のあるジャーナルにおいて、その直前の2年間に掲載したすべての論文の被引用件数を掲載論文数で割ることで算出します。
出典:学会運営ジャーナル
このIFも投稿する雑誌を選ぶ際に重要な値です。目安としては
- ~3.0::簡単に審査を通る。指導教官によってはここはダメと言われる。
- 3.0~4.0:そこそこ通りやすい。おそらく指導教官にダメとは言われない。
- 4.0~5.0: 一般的なレベル。まぁまぁ難しい。
- 5.0~7.0: 凄い。なかなか審査を通るのが難しい。6を超えると良いところに出したねぇって言われる。
- 7.0~15: この辺りは知り合いで出している人がいないのであまり分からんが、とんでもないレベルだと聞く。院生でこの辺に出せたらアカデミックの世界に自信をもって進もう。
- 20,30,40: ネイチャーとかサイエンスとかいうレベル。よく分からないレベル。もし、この辺に掲載出来たら天才。
超個人的な意見ですがそこまで外していないと思います。
院生が論文投稿するならお勧めは3.5~5.0かな
そこまで審査が厳しくなく、掲載できたら実績としても申し分のない雑誌です。
もしどうしても厳しそうで、奨学金免除の申請に間に合わないようなら2~3.5の雑誌に変更しましょう。
審査も通過しやすく、また審査自体が早いです。
ネイティブチェックを受ける
原稿を書いて、指導教員に添削してもらいOKが出たら、次はネイティブチェックです。
ネイティブチェック:英語ネイティブに自分たちの英語が間違っていないのか確認して貰うこと
いくら指導教員に添削してもらったといえど、やはりネイティブには敵いません。あまりにも英語がおかしい場合はそれだけの理由で雑誌への掲載が断られる場合があります。
また雑誌によっては審査を受けるためにはネイティブチェックを受けた証明書が必要な場合もあります。
なので絶対にネイティブチェックは受けましょう。
これを読んでいて
えっ論文って英語で書くの
って驚いた人もいるかもしれません。それはもちろんです。
世界中の人が読める状態で論文を公表するから意味があるんです。
もちろん奨学金免除においても英語で書いたほうが評価が圧倒的に高いので絶対に英語で書きましょう。
審査を受ける
ネイティブチェックが終わったらいよいよ雑誌の査読を申し込みましょう。
査読の期間は雑誌によって大きく異なります。
IFが低い所だと2週間ぐらい、IFが4前後だと2ヶ月ほどだと思います。
大体の雑誌は以下のサイトで査読時間の平均を調べることができるので良かったら調べてみてください。Scirev
修正する
査読が終われば、以下の4種類の返答が来ます。
Accept:受理。修正なしの1発合格です。これはほとんどありません。
Minor Revision:小修整。これが来たら喜びましょう。概ね合格という意味です。返信メールに添付されている質問や間違いの指摘に1つ1つ回答または修正して返答すれば受理されるでしょう。
Major Revision:大修正。この場合、追加実験を要求されることが多いです。なかなか直ぐに修正して返答することはできませんが、返答期限が決まっているので期限以内に死ぬ気で修正して返答しましょう。受理が見えています。
Reject:掲載拒否。この場合は残念です。もっと論文のクオリティーを上げるか、他の雑誌に変更しましょう。落ち込む必要はありません。雑誌の採択率は50%程です。半分ぐらいはRejectされています。採択率を知りたい場合は雑誌名+Acceptance Rateで検索すれば出てきます。
論文を書くスケジュール
ここまで読んでくると
いつから論文の原稿を書けばいいの?
と思う人もいると思います。
まず抑えて置きたいのは奨学金免除のためには修士2年の2月1週目までに論文掲載が受理されていなければいけないという事です。
なぜなら免除の申請書類の締め切りが修士2年の2月前半にあるからです。
ここから逆算して、個人的な意見としては修士1年の夏から論文の原稿を書きましょう。
そして遅くても修士2年の8月には査読に回しましょう。
この時期に査読に回しておけば、1回Rejectになったとしても、もう1度だけ雑誌を変更して査読申請することができます。
僕の実際のスケジュールとしては
- 修士1年8月:原稿執筆開始
- 修士2年10月頭:ネイティブチェック
- 修士2年10月末:査読申請
- 修士2年12月末:Minor Revision
- 修士2年1月頭:受理
というかんじでした。
修士1年8月から原稿を書き始めましたが、査読申請までに回ったのが修士2年10月末とかなり遅くなってしまいました。
原因としては、研究室に論文を書く慣習が無かったことがあります。様々な理由で手間取りました。
僕と同様に過去に論文を書いた人が少ない研究室であれば、最低でも修士1年8月から原稿を書きましょう。
逆に修士でも書く人が多い研究室の場合、修士2年の6月から書き始めれば、教員も協力してくれると思うので2ヶ月あれば査読に回せると思います。
注意点
注意点としては
- データをすべて取り切ってから原稿を書き始めないこと
- 完璧を求めないこと
です。
奨学金免除申請に間に合わせたいのならば、どんな状態であっても修士1年の8月から原稿を書き始めましょう。
原稿を書いていくうちに「必要な文献」や「必要なデータ」が見つかっていくよ。
実験を進めながら論文も並行して書いていく方がいいよ
次に、完璧を求めないことです。
論文を書こうとすると「これだけのデータで査読通るかなぁ」、「あの測定もしておいた方がいいかなぁ」と思ってしまう事もあると思います。
でも、こだわり過ぎては終わりがありません。そんな事をしていたら絶対に院生の内に論文は出せません。
キリの良いデータが出た、もしくは修士1年の8月が来たら原稿を書き始めましょう。
論文を書く上でのお勧めアプリ
最後に論文を書く際に僕が実際に用いたアプリとwebサービスをまとめます。
用いたのはこちらです。
- Zotero:論文管理アプリ
- Deepl:翻訳webサービス
- Shaper:改行削除webサービス
- Icenticate:剽窃チェックアプリ(有料)
Zoteroは上でも触れた文献管理アプリです。詳しくはこの記事の上部「論文原稿を書く」を参考にしてみてください。
Deeplは翻訳webサービスです。多くの人がGoogle翻訳を用いていると思いますが、同じようなものです。
ただ、Google翻訳と比べて格段に翻訳の性能が上です。専門的な内容でも綺麗に翻訳してくれます。ぜひ使ってみてください。
Shaperは改行削除webサービスです。
どういうときに使うかというとpdf等から英語の長文をコピーしてDeeplに張り付ける前に使います。
Shaperを用いずに翻訳しようとすると変なところで改行されて訳がおかしくなります。
Shaperを用いてからDeeplに貼り付ければ、それを防ぐことができます。
iTenticateは剽窃チェック、つまり自分が書いた文章が過去の論文とどれほど被っているかを確認するアプリです。
もしあなたが研究室の先輩の論文を参考に書いているのであれば、同じ表現になっている割合がかなり高くなっている可能性があります。
そのままだとRejectされるので必ず1度は確認しましょう。大体15%以下ぐらいにできればいいと思います。
ただ、このiThenticateは有料です。おそらく教員はアカウントを持っていると思うので頼んで使わせてもらいましょう。
剽窃チェックは必須。近年は特に厳しいのでどんなにいい内容でも表現が他の論文と被りすぎていたら機械的にRejectされる可能性もある
まとめ(【修士】大学院生が学術論文を書く方法を解説)
以上をまとめますと
院生が論文を書くメリット
→奨学金200万円が返還免除になる可能性が上がる
論文を書くために重要なこと
→社会的に意義のある、確度の高いデータ
論文を書くスケジュール
→修士1年8月には原稿を書き始める
→修士2年の8月には査読にまわす
となります!
修士で論文投稿を狙っている人の手助けになれば幸いです。
質問やコメントがあればぜひ↓からどうぞ!
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